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特攻隊員たちの心の内は [特攻隊]

1月22日の朝日新聞夕刊に、高木俊朗著「陸軍特別攻撃隊」の紹介記事が載っている。新聞の半ページに及ぶ記事だから、書籍の紹介記事というより、特集記事というべきだろう。

その記事に、次のような文章がある。


(高木氏はその著作により) 「悠久の大義に殉じた」という一般的な理解の向こう側にある、生身の特攻隊員とその家族の絶望を克明に記録するとともに、作戦を指揮した軍首脳部の無能や敵前逃亡を徹底的に糾弾する。大本営発表と報道の罪を告発し、虚偽の戦果発表に熱狂した国民も断罪する。全編を怒りが貫く圧倒的な筆致で、特攻の実相に迫った。


新聞記事の終わりには、「高木さんは作品の一つに、『戦争に対する怒りの心があって、はじめて、真実を記録することができよう』と記した」なる文章がある。高木氏には戦争に関わる多くの著作がある。高木氏にそれを書かせたのは、「戦争に対する怒りの心」だったのであろう。


敗戦後の日本には、戦争を憎む感情が充満していたはずである。反戦平和のために最も役立つことのひとつは、人々の多くが「戦争を憎む感情」を持つことだろう。私が書いた小説「造花の香り」(アマゾンの電子書籍であるキンドル本になっている。本ブログの左サイドバーに概要を紹介)は特攻隊員を主人公とする恋愛小説だが、そのテーマのひとつは反戦平和である。その小説には、「戦争を憎む感情」なる言葉が繰り返し出ている。その幾つかをここに引用してみたい。


「造花の香り」の序章より引用。(戦後60年のある日、特攻隊員の元婚約者と特攻隊員の親友が語り合う場面である)


「そんな俺たちは、心の底から戦争を憎んでいるわけだが、将来の日本人どころか、今の若い連中にとっても、あの戦争は歴史上のできごとなんだ。ずいぶん遅くなったが、俺たちがまだ生きているうちに」と忠之は言った。「良太が願った大きな墓標を作らなくちゃな。将来の日本人がいつまでも、反戦と平和を願い続けるうえでの象徴になるわけだから」
「それを眼にするだけで、日本があんな戦争をしたことを思い起こさせますからね。それに」と千鶴が言った。「二度と戦争をしてはいけないという私たちの気持ちを、将来の日本人に伝えてくれますからね。そのように願って作るんですもの」
「いまの憲法には、俺たちのそんな気持ちがこめられていると思うが、憲法がいつか改正されるようなことがあっても、戦争を憎む気持が伝わるようなものにしてほしいよな」
「いつまでも伝えたいわね、戦争を禁止する憲法が公布されたときに感じた、私たちのあの気持を。戦争というものが無くなるようにと祈った、私たちのあの気持を」


上記の文章に「大きな墓標」なる言葉がある。本ブログでも幾度かそのことに触れ、その建立を主張してきた。投稿した記事は「靖国神社の英霊たちは何を望むのか(2015.8.10)」「靖国神社に代わる追悼施設とは(2015.8.15)」「戦争犠牲者の追悼について……慰霊碑・記念碑・そして祈念碑(2015.8.17)」「靖国神社に代わる追悼施設とは その2(2017.8.15)」である。


「造花の香り」の終章より引用。(特攻隊員の元婚約者と妹が、特攻隊員の親友とともに特攻隊出撃基地があった鹿屋を訪れ、飛行場の跡で語り合う場面である)
                      
「・・・・・・あの戦争がどんなものだったのか、それを一番よく知っている俺たちには、戦争を心の底から憎む気持を、歴史の中に残しておくという役割があるんだ。戦争の犠牲者や遺族たちの悲しみも、特攻隊員たちの想いも、歴史のなかにしっかり残しておこうじゃないか、二度と戦争を起こさせないために」
 ほんとうにその通りだ、と千鶴は思った。あの戦争を体験し、戦争がもたらす悲しみを痛切に味わった私たちには、後世の人に対して歴史上の責任があるのだ。岡さんが言われたように、歴史としての造花には、ほんものの香りを持たせなくてはならない。その香りが私たちの今の気持を伝えるはずだ。戦争を心の底から憎んでいる私たちの気持を。


特攻隊に関わる幾つかの書物を読んだ私は、「造花の香り」なる小説を書くに至った。創作を進める過程で、特攻隊員たちが遺した遺稿集など、さらに多くの資料に目を通し、そこに記されている文章を読むだけでなく、書くことが許されなかった、あるいは、書くことをためらったであろう心の内に想いをはせた。ある遺稿集の序文に、「彼らが遺した文章を単に読むだけでなく、行間に隠れている文章を読み取ってほしい」と記されていた。仮に検閲がなかったとしても(中には検閲を免れたものがあるけれども、軍隊内で書かれた遺書などのかなりは、投函される前に検閲を受けている)、愛する家族たちの悲しみを和らげるために、遺書には「悠久の大義に生きる」とか「名誉ある特攻隊に選ばれた喜びをもって出撃する」などの言葉を記したのではなかろうか。そのような言葉を遺して征った特攻隊員たちであろうと、本心から特攻出撃を望んでいたとは思えない。


小説を書きながら、特攻隊を出撃させた日本の精神風土と、そのような精神風土を作り上げた者たちに強い怒りを覚えた。その怒りは、戦争に関わる多くの書籍を遺した高木氏の怒りに通じるものだと思う。


特攻隊は決して美化されてはならないが、彼らの死が無駄なものであったとは思いたくない。「造花の香り」の主人公である良太は、悩んだあげくに特攻隊を志願する(志願させられた)のだが、そこに至る良太の心の内を、私は以下のような文章にした。重い決断をせまられた良太が、特攻隊を志願するに至る心の内を書いた部分である。戦時中の空気を吸っていたとはいえ、まだ幼くて軍国少年にも達していなかった私には、想像して書くことしかできなかったが、特攻隊員たちの死を無駄なものとは思いたくない気持ちが、このような文章を記させたのである。


「造花の香り 第五章 昭和二十年春」より引用


 戦争に負けても日本を残すこと。そのためには、敵国に日本人の愛国心の強さを見せつけなければならない。その役割をはたすものこそ特攻隊ではないか。多くの特攻隊が出撃することによって示せるではないか、日本人は祖国を限りなく愛しているゆえに、国家の危急存亡に臨めば自らの命を捧げ、自分たちの祖国を護りきろうとするのだ、と。
 飛行場をふり返ると、枯れた芝生に腰をおろしている仲間が見えた。冷たい冬の芝生のうえで、二人の仲間は彫像のごとく固まっていた。良太はその姿を見てうしろめたさを覚えた。自分が安易に卑怯な結論を出したような気がした。
 良太は芝生に腰をおろした。仲間のひとりが立ちあがり、建物に向かって歩いていった。良太は膝をかかえて眼をとじた。
 敗戦国としての日本を思えば、特攻隊の出撃には大きな意義がありそうだ。多くの特攻隊が出撃していたならば、戦後の処理にあたる戦勝国とて、日本人の愛国心を無視することはできないだろう。そうであるなら、我々のはたすべき役割は特攻出撃にあるのではないか。特攻機を操縦できるのは、おれたち操縦員しかいないのだ。このことに気がついたからには、おれは特攻隊に志願すべきではないか。隊の仲間たち全てにそれは言えることだが、仲間たちはどのように考えているのだろうか。
 良太は眼をひらき、辺りを見まわした。芝生のうえには良太しか残っていなかった。
 極めてわずかとはいえ、生還できる可能性のある道を選ぶか、それとも敗戦後の日本に再建の芽を残すべく、この国に命をささげる道を選ぶか、俺はいま、それを決めようとしている。死にたくないゆえに特攻隊を志願せず、しかも運よく生き残った場合、俺はどんな人生を送るだろうか。亡国阻止のための出撃を避けたことを悔い、負い目を抱えて生きてゆくような気がする。
 
戦時の日本人のなかには、日本が負けるはずはないと思っていた者もかなりいたようだが、学徒出身の特攻隊員たちのかなりが(もしかするとその多くが)、明確に敗戦を予期していた事実がある。そうであろうと、彼らは命令に従って出撃していった。軍の上層部は敗北は必定なりとわかっていたはずだから(そうでなかったならば、よほどの馬鹿者たちだったことになる)、早急に降伏すべきであった。にもかかわらず、「一億総特攻」や「本土決戦」の檄をとばして、多くの特攻隊を出撃させ、空襲による甚大な被害を受け、そのあげくに原爆の被害を蒙り、ソ連の参戦を招いた。


官僚が自らの本分を忘れたかのように政権に媚び、安倍長期政権は政治の正道から大きくはみだしている。民主主義国家であるはずの日本でありながら、国民は愚劣な政治家に政治をまかせ、それによって犠牲にされている。


教育行政を正常なものにしないと、この国の将来に明るい展望は望めないと思われるのだが、政治を見張ることの重要性を教えようものなら、教師には偏向教育のレッテルが貼られる可能性がある。私が書いた小説「造花の香り」(アマゾンの電子書籍キンドル本になっている。本ブログの左サイドバーに、小説の概要を紹介している)の表紙には、題名の下に「戦争の時代を生きた青年たちの声が聞こえる、幸せな人生を生きたければ政治を見張れ、我らが如き悲劇を繰り返すな」と記されている。


この国の未来のためには、時に応じて政権を交代させる政治風土にしなければならない。この国の国民は、政治の正道から大きくはずれ、むしろ邪道をつき進む自民党に、いつまで政権をゆだねるのだろうか。


2020.3.6 追記

小説「造花の香り」と「防風林の松」を、小説投稿サイトのカクヨム」「小説家になろう」などに投稿しました。


カクヨム」を検索すれば、まっさきに、「カクヨム: 無料で小説を書ける、読める、伝えられる」なるサイトが見つかります。そのサイトの上辺にある「小説・ユーザーを検索」をクリックし、左側に現れるキーワード検索欄に「造花の香り」と入力して検索すれば、「造花の香り」のタイトルが表示されます。そのタイトルをクリックすれば、第1話から順番に表示されますので、読みたい部分を読むことができます。長編小説をネットで読みやすくするため、連載形式にして、1話を10分程度で読めるようにしました。

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