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憲法9条と聖徳太子による十七条憲法 [政治および社会]

聖徳太子が作ったと伝わる憲法十七条の第一条は、「和を以って貴しと為す」となっている。最初にこのような言葉が記されたのは、骨肉相争う時代を生きた聖徳太子の、「和」に対する思いがこめられているからだという。ある書物でそのような記述に出会い、今の日本国憲法が成立した当時の社会情勢を想った。


日本は軍国主義と全体主義のもとで無謀な戦争を行い、この国はもとより周辺諸国や対戦国の国民に、空前絶後の痛苦と悲劇をもたらした。今の憲法が公布されたのは昭和21年11月(施行されたのは昭和22年5月3日)だから、日本の敗戦からわずか1年あまりが経った頃である。その憲法が平和憲法と称されるのは、言うまでもなく第9条の存在にある。原案がGHQ(敗戦後の日本を占領統治するために置かれた組織「連合国軍最高司令官総司令部」の略称。昭和27年4月、日本の主権回復に伴い解散された)によって作られたのは確かだが、日本政府はそれを参考に新憲法案を作成し、国会に諮った。


GHQから提示された原案は、当時の日本人には思い及ばなかったであろう先進的なものだったと想像されるが、それを見た政治家や官僚たちは、基本的人権や民主的な考え方に、感銘と共感を覚えたのではなかろうか。無謀な戦争に突き進んだあげくに、極限の痛苦と悲しみを与えられた過去を悔い、戦争を憎む感情が国中に満ちていた時代である。現憲法が起案されたのはそのような時代である。


GHQの総司令官だったマッカーサーの回顧録に、次のような文章があるという。


(マッカーサーの執務室を訪れた)幣原首相は私に言った、「憲法に戦争放棄と軍備を持たないとする条項を加えたい」と。そうすれば、いつの日か、軍部が再び権力を握ることができないようにできるし、日本には戦争を行う意思が決してないことを,世界の諸国は知ることになるだろう、と幣原首相は言った。
 首相はさらに、貧しくて軍備にカネを注ぎ込む余裕のない日本は、残されている資源の全てを経済再建に当てるべきだ、 とつけ加えた。
 私(マッカーサー)は腰が抜けるほど驚いた。私は長い年月の経験により、人を驚かせたり、異常に興奮させたりする事柄に出会っても、動じることはなくなっていたのだが、この時ばかりは息が止まるほどに驚いた。私は、戦争は国際間の紛争解決には時代遅れの手段であり、廃止すべきであると信じていたからである。


マッカーサーは幣原に語ったという、自らの体験を通して、戦争に対する嫌悪感を強く抱くようになったこと、そして、原爆の災害を知ってそれがさらに強まったことを。その話を聞いた幣原首相は大変に驚き、涙を流したという。幣原首相はマッカーサーの事務室を出るとき、涙の顔で振り返り、「世界は私たちを非現実的な夢想家として,あざけり笑うかもしれないけれど、いまから100年後には,私たちは予言者と呼ばれることでしょう」と言ったという。


マッカーサーの回顧録の全てが真実であると言うつもりはないが、日本側の資料でも裏付けられているようだから、憲法起案に関わる記述には真実味があると思う。幣原首相が語ったという言葉には、敗戦直後の日本人の気持ちがこめられている、と私は思う。


原案がGHQから提示されたものとはいえ、日本の政府と官僚たちが充分に検討して起案したはずである。もしかすると、「アメリカから押しつけられた憲法ゆえに改正したい」と主張する者たちは、9条を改正したいがための理由づけとして、それを口にしているのかもしれない。


戦がもたらす悲劇を嘆いたであろう聖徳太子によって作られ、1400年後の今に伝えられる十七条憲法。敗戦後の日本に満ちていた戦争を憎む感情がこめられた今の憲法。その平和憲法の精神を守らねばならない。それは、私が書いた小説「造花の香り」(アマゾンの電子書籍キンドル本になっている。本ブログの左サイドバーに概要を紹介)のテーマのひとつでもある(1月25日の投稿記事「特攻隊員たちの心の内を想う」参照)。とはいえ、現憲法が「不磨の大典」として、永久に不変であるべきものとは思わない。時代の変化と社会の進化に適応すべく、必要であれば改正されてしかるべきだが、自民党主導での改正には危惧をおぼえる。


安倍政権は狭量かつ独善的であり、政治の正道から逸脱している。自民党内から声があがって安倍政権に退場を迫るようなら、自民党にも多少の期待はできるのだが、今の自民党にそのような動きはまったくない。安部に批判的な石破派が冷遇されても、他派閥は傍観しているだけであり、安倍政権に対する危惧を表明している自民党の関係者は、引退した高齢の元議員たちだけである。本来ならば、安倍批判の声が広く国民からあがれば望ましいのだが。

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