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学校教育のあり方について [教育]

7月7日のMSNに、東洋経済ONLINEの記事「公立の数学の授業を見て感じた「悲惨さ」の正体 日本の一斉授業は本当にこのままでいいのか」が紹介されている。筆者は教育評論家の親野 智可等氏である。かなり長い記事だが、少しでも多くの人に読んでもらいたいと願って、ここで紹介させてもらうことにした。


  公立の数学の授業を見て感じた「悲惨さ」の正体 日本の一斉授業は本当にこのままでいいのか(東洋経済ONLINE  親野 智可等 2020/07/07 より)
 
 コロナ禍をきっかけに、私たちの生活や仕事などいろいろな面で見直しが行われている。この機会に、小中学校の授業のあり方も見直す必要があると思う。なぜなら、日本でずっと行われてきた授業スタイルの“限界”が明らかになっているからだ。
 日本では、1学級最大40人の児童・生徒の集団に対して、1人の先生が一斉授業を行うというスタイルが基本だ。こういった授業でいちばん問題なのが、児童・生徒たちの学力格差が非常に大きいということだ。
 とくに、算数・数学の授業でそれが顕著だ。公立の小中学校の場合、同じ年齢の児童・生徒の集団とはいっても、算数・数学における学力格差は非常に大きい。例えば5年生の児童に「円の面積」を教えるとしよう。中には、塾などで学習済みですべて完璧に理解している子もいる。一方、基礎的なかけ算やわり算さえおぼつかない子もいる。足し算や引き算さえできない子がいることもよくある。
 こういった子どもたちを相手に一斉授業を行う先生は、どのレベルに焦点を当てて進めればいいだろうか? もし学力上位の子たちに焦点を当てて進めれば、当然、大多数の子を落ちこぼすことになる。だから、多くの場合、学力が「中位の下」か「下位の上」くらいのところに焦点を当てて進めることになる(「中位の下」とか「下位の上」などという言葉は好まないが、ほかに適当な表現が見当たらないので使用する)。

 さて、これでも「下位の上」より学力が低い子たちには難しくて理解できない。でも、さらにレベルを下げてしまうと、時間がかかりすぎて進度が遅れることになる。すると、1年間で教科書を終わることができなくなる。だから、先生はこれらの子たちが理解していないことがわかっていても、授業を次に進めていかなければならないのだ。
 これらの子たちには、その子の学力に応じた個別な指導が必要なのだ。でも、先生にはそれを行う時間がない。先生たちはつねに超多忙で、やるべきことが山のようにあり、そういう個別な指導をする時間が取れないのだ。
 もし、無理に時間を取るとしたら休み時間ということになるが、それだとその子たちは友達と遊ぶことができなくなる。そういった子たちの中には、休み時間に友達と遊んだりおしゃべりしたりするのが楽しみで学校に来ている子たちも多い。それを奪うことになってしまうのだ。それに、有り体に言えば、休み時間にちょっと指導したくらいでその子たちが追いつくということも、ほとんどの場合期待できない。
 それに、先生にとっても、休み時間に個別な指導をしていると、次の授業の準備ができなくなるという問題がある。体育で使う跳び箱の準備も、理科の実験の準備も、社会で使う映像資料の準備もできない。提出された宿題のチェックもできなければ、家庭からの連絡帳を読んで返事を書くこともできない。
 子ども同士のソーシャルディスタンスや換気の具合に目を配ることも、トラブルに対応することもできない。気になる子とコミュニケーションを取ることもできないし、先生とおしゃべりしたくて寄ってくる子も追い返さなければならない。
 こういったことで、授業時間以外に個別指導をする時間は取れないのだ。しかし、考えてみれば、肝心な授業の時間にそういった子たちをわからないまま放置しておいて、別の時間に教えるというのがそもそもおかしいのだ。とはいっても、そういった子たちに対して授業時間に個別指導していたら、授業を進めることができないし、ほかの子たちを放置することになる。
 つまり、学力格差が大きい子たちに一斉授業を行うことは無理なのだ。無理というより、私は子どもの人権を無視した非人道的行為だとさえ思う。それを強く感じたのは、以前、公立中学で中3の数学の授業を参観したときだ。
 内容は「二次方程式の解き方」で、生徒たちがそれについて、アクティブラーニングよろしく、積極的に発言して話し合いながら、解法を見つけていくという授業だった。だが、見ていて悲惨で、先生も生徒たちもかわいそうに思った。そして、その悲惨さはとくにその先生の能力が低いことによるものではなく、日本の授業スタイルが持っている本質的な問題点によるものだと感じた。
 40人近い生徒がいたが、塾で学んで完璧に理解している子たちがいる一方、わり算やかけ算ができない子もいた。わり算やかけ算はできるけど、因数分解はできないという子もいた。また、因数分解はできるけど平方根がわからないという子もいた。こういったことは、授業の指導案の個別カルテに記載されていたので、参観者にはわかったのだ。
 授業についていけない生徒たちは、わからないまま座っているだけだった。一部の子たちは積極的に発言したりして、一見盛り上がっているように見えたが、その話し合いに本当についていけている子は3分の1もいなかったと思う。学力格差が絶大な中での、こういった一斉授業の「話し合い」は、生徒にとっても先生にとっても不幸だと感じざるをえなかった。
 昨今こういった「話し合い」の授業が、「アクティブラーニング」という美名の下に、さらに増えてきているという実態もある。百歩譲って一斉授業を受け入れたとしても、先生がわかりやすく教えてくれるならまだしもだが、こういう子どもたち同士の話し合いを中心にした授業だと、余分な要素が入りすぎてゴチャゴチャするので、何が何だかわからないまま座っている子たちが増えるだけなのだ。
 だが、本当は学力下位の子たちにも適切な指導ができる方法があるのだ。しかも、休み時間ではなくちゃんとした授業時間に行えて、各自の学力ニーズに応じた個別学習ができる方法だ。それは、IT活用の個別学習だ。
 これは、すでに民間の塾や通信教材においては普通に行われている。主に「専用タブレット」「iPad」「androidの端末」などを使う教材で行い、中にはIT教材と紙の教材を組み合わせたものもある。また、子どもの学力や目標に応じて基礎学力コースや中学受験コースを選べるものもある。
 各社の教材による違いはあるが、だいたいは最初に動画やアニメーションによる解説があって、学習内容をわかりやすく説明してくれる。円の面積が、なぜ「半径×半径×3.14」で求められるのか、非常にわかりやすく教えてくれるのだ。子ども同士の話し合いだとごちゃごちゃしてわからなかった子にも、これならわかりやすい。
 次に基礎的な練習問題、応用問題と進む。わからなくなったらまた最初の解説を見ればいい。気兼ねなく何度も見ることができて、文句を言われることもない。先生、親、友達だとこうはいかなくて、微妙に「まだわからないの?」的な雰囲気を感じてしまうところだが。
 練習問題も各自のつまずきや理解度に応じて、その子に必要な問題が出てくる。解けなかった問題を繰り返し解けるので、確かな定着が可能になるのだ。これは時間と労力の面でコスパがよい。一斉授業や紙の教材だとこうはいかなくて、その子にとってはすでに必要ない問題が何問も出てきて、本当にその子に必要な問題はちょっとしか出てこないということがよくある。
 やる気を高める工夫も怠りない。ゲーミフィケーション要素を取り入れて、ゲーム感覚で学べるものや、スモールステップでリトルサクセスを積み重ねてやる気を高めるものもある。随所で子どもの頑張りを褒める言葉が出てきたり、達成率が数字やグラフで確認できたりなどの工夫も見られる。これらの工夫が子どものやる気を高めてくれる。こういった数字やグラフを保護者が見れば、学習の進捗を知ることもできる。
 私自身も中学・高校と数学が超苦手で、6年もの長きにわたって、数学の授業中はよくわからないまま座っていた。同級生たちの話し合いは完全に意味不明で、先生の説明もよくわからなかった。今思い起こしてもあの膨大な時間のロスがもったいなく感じられる。あの無駄に過ごした時間に、今あるようなIT教材で学ばせてもらえていたら、私の数学への苦手意識ももう少し何とかなったのではないかと思う。
 この機会に、学校もこういったITを活用した個別学習に舵を切るべきだと強く思う。もし話し合いをするなら、クラス内のルール変更、トラブル解決、イベントの運営方法、時事問題などの話題について行えばよい。こういう話し合いなら、学力差は関係ないので誰でも積極的に参加できる。
 それに、こういった話題について民主的な話し合いを行う経験は、ぜひたくさん行うべきだとも思う。こういう話し合いなら、学力差は関係ないので、誰でも積極的に参加できる。
 今までの学校は、教科の学習で最大40人の一斉授業が当然とされてきた。日本の教育予算はOECD37カ国の中で最下位で、先生の数が少なすぎて個別対応ができなかったし、ITを活用する環境も機運もなかった。だから、一斉授業を行うしかなかったのだ。でも、今ではIT活用の環境もあるし、機運も醸成されてきた。だから、この機会に個別学習に大きく舵を切っていくべきだ。
 それは新型コロナへの対策にもなる。つまり、今後、新型コロナ危機の第2波が来たときも、子どもの学習権を保障することができる。第2波が来たとき、また学校が大量のプリント宿題を子どもとその親たちに押しつけるなどということは絶対に許されない。




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