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憲法改正に反対はしないけれども [政治および社会]

母が生まれたのは101年前である。明治が終わって大正の時代となり、大正デモクラシーが始まろうとしていた頃とはいえ、現在の日本とはまるで異なる世の中だったはずである。

母の生家は古い家柄の大地主であった。戦前の日本に関わるテレビドラマなどには、芳しからざる地主が描かれることがあるけれども、母から聞かされる生家にまつわる様々なエピソードは、地主と小作人の持ちつ持たれつの関わり合いを想わせる。母の生家はずいぶん古い時代からの地主だったから、地主になるまでの経緯はわからないが、歴史を重ねてゆくうちに、地主と小作人たちの間に安定した関係が作られたのであろう。戦前の日本ではありふれたことであったそれは、現在の価値観では受け入れられない制度である。母は裕福だった昔の生活を、懐かしそうに思い出しつつ語るけれども、そのような母にとっても、昔の日本よりも今の世の中の方が好ましいことだろう。

安倍晋三首相は、「美しい日本を取り戻したい」と言う。日本を美しくすることには大賛成だが、取り戻すという過去の日本は、今より勝れて美しかったのだろうか。3月18日の記事{「美しい日本を取り戻す」ではなく「日本を美しい国にしたい」と願う首相を望む}に書いたように、安倍首相の言葉には疑問を覚える。

3月18日の記事{「美しい日本を取り戻す」ではなく「日本を美しい国にしたい」と願う首相を望む}の後半は、次のような文章になっている。

戦前の日本には今では考えられないほどの問題点があった。…………それにもかかわらず、「美しい日本を取り戻す」と言うからには、何かしらの魂胆があるにちがいない。先にあげた様々な問題点とは異質な部分に、安倍首相の目ざす美点があるというのだろうが、それはいったい何だろう。社会や政治のあり方に関わるものではあり得ないから、安倍首相から見て美しいのは、昔の日本人にあった価値観であろうか。そうだとすれば、そのような首相には即刻やめてもらいたいと思う。
戦前の日本人が有した価値観に在った美点の多くは、現在に引き継がれているはず。失われたものがあるとすれば、それが時代にそぐわないからであろう。一度は失われようとも、社会と国民にとって本当に有用であり、必要なものであるなら、形が多少は変わろうと、復活するにちがいない。政治がとやかくすべき筋合いのものではなかろう。にもかかわらず、安倍首相とその一派は「美しい日本を取り戻す」と言う。その魂胆に気づいている国民も多いはずだが、不思議なことに、安倍内閣は安定状態にある。
「美しい日本を取り戻したい」と言う首相に代わって、「日本を美しい国にしたい」と願う首相が現れるよう願っている。


先の参院選挙ではアベノミクスを前面に出し、憲法問題にはほとんど触れなかった自民党だが、憲法改正を悲願とする安倍首相のもと、それが政治の表舞台に登場するのは遠くないはずである。

憲法改正に反対しているのは日本共産党と社会民主党だけであり、他の野党は自民党作成になる「日本国憲法改正草案」(平成24年決定)に対して批判的とはいえ、より好ましい形への改定には前向きのようである。制定されてから70年に近い歳月を経た憲法が、この国と国民にとって好ましい方向に改正されるのであれば、もちろん大いに喜ばしいことだが、自民党の体質を思えば不安である。

今の憲法がしっかり根付いているはずのこの国でありながら、「だらしない若者が多くなったのは、戦前のような徴兵制度がないからだ」という声を聴いたことがある。体育会系の部活における理不尽な行為やしきたりが、今以てしばしば報じられる状況にある。自衛隊では陰湿ないじめが横行しているとの記事を読んだことがある。自民党が主導するはずの改正憲法には、まかり間違っても「時代にそぐわない戦前の価値観」を持ち込まないでもらいたい。そのためには国民がしっかりと、国会での審議を監視しなければならない。

与党が憲法を蔑ろにして安全保障関連法案を成立させても、先の選挙は相も変わらぬ投票率で、自民党と公明党が選挙で罰せられることもなかった。国会が憲法改正に関わり始めたなら、これまで政治に関心を抱かなかった人たちにも、審議の様をしっかりと見つめてもらいたいものである。そのためにも、まともなマスコミが、真価を発揮してくれるようにと願っている。

今日の記事を書き始めたとき、タイトルは「百年前の日本を想いつつ」であり、戦前の日本を引き合いにしつつ、今の日本について書くつもりだった。ところが書き進めるうちに、横道に逸れてこのような文章を書くことになり、タイトルを変える結果になった。

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