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特定の価値観が支配する社会にしてはならない [政治および社会]

太平洋戦争に敗北するまでの日本では、国が要求する価値観から外れた者には、容赦なく「国賊」あるいは「非国民」なるレッテルが貼られた。自ら考えて自らの答えを出そうとするタイプのひとが、押しつけられた価値観に疑問を抱き、そのことを口にしたとき、「国賊」あるいは「非国民」として責められたのだが、責めたのは行政や司法に関わる者とは限らなかった。「お上は正しいのだ」と思い込んでいた国民たちは、自信をもって責める側にまわったようである。

オウム真理教の事件があって以来、洗脳なる言葉が知られるようになったが、洗脳は昔から行われており、戦前の日本では政府が国民を洗脳していたと言ってよいだろう。北朝鮮や共産党独裁の中国では、戦前の日本同様に政府が主導して国民を洗脳しているようである。

戦前の日本では、小学校の1年生から軍国思想を植え付けようとしていた。1年生ではカタカナから教えられたのだが、「ススメススメ ヘイタイススメ・・・」といった文章があったと記憶している。二年生の夏に戦争が終わったので、上級生の教科書を見る機会は少なかったのだが、軍国少年を育成するための文章が多かったに違いない。記憶に残る「キグチコヘイは死んでもラッパを口から離しませんでした」なる文章には、戦死した軍隊のラッパ手をとりあげ、責任感の強かった兵士を賞賛する意図があったのだろう。勇敢に戦って戦死した兵士を「爆弾三勇士」として、教科書の中で賞賛している文章もあったはずである。

幼児期からの軍国主義教育が、日本人にどのような意識を与える結果になったのか。それを窺わせるできごとは無数と言えるほどにあるわけだが、敗戦が決定した直後の基地で起こったこともそのひとつの例だろう。終戦が決まった昭和20年8月15日のことである。大分の海軍航空隊基地で、司令長官だった宇垣纏中将は、中都留大尉に対して自分とともに特攻出撃するよう命じた。中都留大尉は宇垣中将を乗せて終戦後の沖縄へ出撃したのだが(注)、その機には他にも同乗者がいた。止められたにも拘わらず出撃を望んで、座席の隙間にもぐりこんだ航空兵だった。特攻隊員の中には、本心から志願した者もたしかにいたと思われるのだが、彼らにはどんな思いがあったのだろうか。幼い頃から教え込まれた「国家のために命を捧げることこそ、最も尊くて最高に名誉な行為である」との信念が、彼らをその行動に駆り立てたのではなかろうか。

国民の生き方や価値観に国が関与し、国が目指すところに同調すべく導くならば、行き着く先にはどんな社会が待っているのか。窮屈で息苦しい社会。自由な意志を束縛されて、上からの指示や意向に添う生き方を強いられる社会。個人よりも国家が優先される社会。そのような戦前の日本に回帰してはならないのだが、自民党とその同調者の中には、「自分たちの考え方や意向に反する者は間違っている。国民は自分たちの意向に添って考え、それを受け入れるべきである」と考える者がいるようである。彼らはさらに、「国民は愛国心を持つのみならず、その気持ちを形で表さねばならない。公の行事に際しては国歌を歌い、国旗に敬意を表さねばならず、従わない者は罰せられるべきである。愛国心を損なう要素は教育の場から排除し、日本にとって負のイメージを与える歴史的事実も、教科書から排除しなければならない」としている。そのような考え方をする者が国民の一部でしかないと油断していたなら、将来的には困ったことにならないか。卒業式に国歌を歌わなかったことで責められ、不当な扱いを受けている教員が、東京都をはじめとして各地にいることを思うと、自民党に圧倒的多数を与え続けることに不安を覚えるのだが、いつまでこの状態が続くのだろうか。

自民党が作成した改正憲法案には、現在の「すべて国民は個人として尊重される」なる文章の代わりに、「すべて国民は人として尊重される」なる文章がある。これから始まるであろう改正に向けた論議の中で、自民党が「個人」のところを「人」とすべく固執するなら、他の条項をも含めて、野党は徹底的にその意図を追求し、抵抗しなければならない。それにもまして重要なことは、審議の様を国民が注視することであろうが、そのためには、「まともなマスコミ」にがんばってもらわねばならない。そのようにして頑張る「まともなマスコミ」を、自民党はおそらく攻撃するであろうが、そのような自民党の姿をあからさまにすべく、「まともなマスコミ」には良識ある国民とともに頑張ってもらわねばならない。「まともなマスコミ」を支えるのは、良識ある国民である。

(注)このとき出撃した数機は、いずれも米軍を攻撃することなく、岩礁や海面に突入している。


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