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オードリー・ヘプバーンの心理的自画像 [教育]

録画したままになっていた映画を妻とともに観た。オードリー・ヘプバーン主演の「パリの恋人」で、しばらく以前に放映されたミュージカル映画である。さほどに勝れた映画ではないと思うが、それなりに楽しく観ることはできた。

私が書いた小説「防風林の松」(注)の中に、オードリー・ヘプバーンに関わる次のような一節がある。会社をやめることにした主人公が、友人との会食に際して、友人の妹を話題にしている場面である。

「おまえのおかげでコンプレックスも消えたようだしな」と坂田が言った。「おれの眼にはけっこう可愛い奴に見えるんだけど、本人にすればそうではなかったみたいだな。よくはわからないんだが、女というのは、おれたちとは違ったふうに見るのかもしれないな、自分のことを」
 絵里の笑顔ときれいな瞳を思いうかべながら、絵里にコンプレックスがあるとはどういうことだろうと思った。
「おれにはわからないけど、絵里さんのコンプレックスってどういうことだ」
「おまえの前では絵里も明るく振る舞えたようだから、おまえは気がつかなかったんじゃないかな、絵里が気にしていることに。お前のおかげで、今では気にしていないだろうけど」
 僕を魅了した絵里の瞳が思いだされた。あの絵里にどんな自画像があったのだろう、と思ったとき、オードリー・ヘプバーンについて書かれた週刊誌の記事を思いだした。
「オードリー・ヘプバーンという女優がいるだろう。ヘプバーンの自伝を紹介した記事に出ていたんだけど、あのヘプバーンには、自分がみにくいというコンプレックスがあったらしいよ。信じられないような話だけど、自分自身についての思い込みを、心理的な自画像とか言って、案外だれでもそういうのを持っているらしいよ。もしかすると、絵里さんも変な自画像を抱えているのかな」
 坂田は手にしていたコップを見ながら言った。「いつだったか、おまえは話したよな、お前は小学生のころ、自分は頭が悪いと思い込んでいたって。人間というのは、そんなふうにして自分に催眠術をかけるんだよ。自分は優れていると思いこんだ者は得をするけど、運がわるいとその逆になるわけだ。おまえは電子回路を勉強したおかげで成績が良くなったそうだが、絵里の場合には、おまえのおかげで催眠から醒めたんじゃないのかな。だから、お前に絵里を会わせてよかったと思ってるんだ」

ある週刊誌が取り上げたオードリー・ヘプバーンに関する記事に、ヘプバーンは心理的にマイナスの自画像を抱いていたと記されていた。かなり以前のことであり、どの週刊誌に出ていたのか記憶にないが、私には興味深い記事だった。人は様々な事柄に対して、先入観や固定概念さらには思い込みを抱く可能性がある。自分自身に対するマイナスのイメージが思い込みのレベルになれば、そこから抜け出すことが難しくなり、自らの人生を束縛することにもなるだろう。とはいえ、自分でつかむにしろ、他から与えられるにしろ、何かのきっかけさえあれば、そのような思い込みから抜け出すことができるだろう。小説「防風林の松」の主人公は技術者ながら、中学1年生までは成績劣等生だった。そこから自然な形で抜け出す様が、小説の中では簡潔に記されているのだが、抜け出すにはむろんきっかけがあった。小説の主人公に私自身の体験を重ねたのはその部分だけであるが、この小説が有する幾つかのテーマには、私の思いがこめられている。

このブログに幾度も書いてきたように、中学1年生までの私は成績がよくなかったのだが、ある時期から急速に向上し始めて、むしろ成績優秀者のひとりになった。そのような体験をこのブログに記すのは、読んでくださる方の参考に供したいからである。左欄に表示されているマイカテゴリーの中に「教育」なる項目がある。そのカテゴリーに記された記事のすべてが、誰かの役にたつよう願ったものであり、今日の記事もそのひとつである。多少なりとも参考にしてもらえるなら、私としては実に嬉しいことである。

注 小説「防風林の松」

左のサイドバーにその概要が記されている。


 


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