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結核が小説のテーマになった時代 [小説]

昔から人類を苦しめてきた結核が、薬剤によって治療できるようになったのは、今から50年ほど前のことである。それまで不治の病として恐れられていた結核は、患者が多いこともあって亡国病と呼ばれたものである。


映画やテレビのドラマでは、主要人物がガンにおかされる物語をしばしば取り扱うが、結核の治療法が確立される以前には、小説や映画で重要な役割をはたす病気は結核だった。明治時代のベストセラー小説「不如帰」(徳冨蘆花)、昭和時代初期の小説「風立ちぬ」(堀辰雄)、外国の小説ではトーマス・マンの「魔の山」や アレクサンドル・デュマの「椿姫」など、枚挙にいとまがないほどである。この中で私が読んでいるのは、「風立ちぬ」と「魔の山」だけだが、結核が難病であった時代を識る私には、作中の人物のみならず、作者の気持ちもわかるような気がする。


宮崎駿監督によるアニメ映画「風立ちぬ」は、戦前の戦闘機「零戦」を開発した掘越二郎技師の事績と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」に想を得た作品である。今の若いひとには堀辰雄はなじみのない作家であろうが、宮崎駿監督の心の中に、小説「風立ちぬ」は強い印象を残していると思われる。小説「風立ちぬ」には、ヒロインが野原で写生している場面があり、風で画架が倒れる音が描かれている。アニメ映画「風立ちぬ」にも、設定は変われど類似の場面がある。


私は少年時代に結核に感染しているが(本ブログの「結核がガンより恐ろしかった時代」参照)、感染したことがない人であっても、70歳以上の人は結核の恐ろしさを知っているはず。堀辰雄の小説「風立ちぬ」を記憶していた宮崎駿監督も、間違いなくそのひとりである。小説の世界から結核が消えて久しいが、ガンを取り上げる小説が書かれなくなるのは、果たしていつのことになるのだろうか。いきなりそんな時代になる可能性はある、とも思えるし、そうであってほしいと願ってもいるのだが。


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