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父の歌集より 10 [父の歌集]

前回に続いて、昭和9年の近畿旅行に際して詠まれた歌を紹介します。高野山を去った父は、直線距離で30Kmほどの奈良県天川村まで歩いたようです。山道で雨にうたれたり、疲れきるほど歩き続けたりと、相当に苦労したようすが詠まれています。天川村には修験道で有名な大峰山があり、父はその宿坊にも泊まっています。
                                                   
向山に雲かげりして動く見ゆ谷の瀬音のはるかにきこえ
ほてりたる足なげて橋に座りけりたぎつ河瀬に河鹿の鳴くも
どっかりと橋に座りて足もみぬ天の川水青深くすみ
      天の川(てんのかわ)・・・・・・奈良県の川
そば立てる青葉山かげひたしつつ天の川水深くよどめり
河原には蒲團(ふとん)さらしてありにけり坂本の宿の夏まひる時
ひるすぎを子等たはむるく余念なさ心ゑましくなりにけるかも
ぬるるともせん方もなき身のつかれうれしや雨はふらでやみけり
山々の木々の繁葉をどよもしてしぶきこめたり山峡の雨
とうとうと路にあふるる雨水をふせぎののしりゐたりけるはや
山川の瀬音にはかに高なりて雨脚はやや遠ぞきにけり
向山の杉の梢をたちこめて霧立上る雨後の山峡
子等のはむ焼もろこしのしみじみとにほひたりけり夕山の里
宿 ぎて靴の紐とくその手さへおののき止まぬ身のつかれかも
たらひ湯に心虚しくつかりをり軒端のきびの葉も動かぬを
露ふくむ早稲のみのり穂日をうけてすかすかしかも天の川村
          天の川村・・・・・・ 天の川(てんのかわ)沿いの天川村
振鈴の音深き木の間やきこえけりやかて行きあひぬ行者の群に
諸木々のほつ枝ことごとく枯れはてて下葉のみしげるここ山上か岳
     山上か岳・山上ケ岳・・・・・・大峰信仰の中心であり、大峰山の代名詞
山上の朝まだきに起き出でて行者と共にすする味噌汁
宿院の広土間に焚く大暖爐囲みて黙す朝の寒さに
東の豊旗雲をおしわけて日は出でむとすしるけき光
旗雲のきらめきてややに動くよと見るまにかつと日矢射し来る
金色に雲光りをり悠々と大いなる日のさしのぼりたる
たたなづく青山脈の果もなく南大和は明けはなれたり
もやこむる大和山城未ださめず天に連なる丹波高原
       大和・山城・丹波高原  ?
見はるかす大和国原もやこめつ日は暮れむとす市のぞよめき
街の音の遠くきこえ来若草はいづくともなく鹿つどひたる
     若草・・・・・・奈良の若草山か?
葉を洩りて土にさす日のひそやかさ山の栗鼠ゐて松の實をはむ
                                                   
今はとて妹はまた亡き父に別れ告げむと額づきにけり
妹の嫁ぎゆく夜なり父しまさば父しまさばとしみじみ思ふ
妹の嫁ぎゆく姿一目さへ見ずて死なせる父しかなしも
葦の穂にむれとびなづむ雀かも夕の湖(ゆうべのうみ)は水未だ去らず


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