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無名作者の小説を読んでくださった出版社の編集者 [小説]

特攻隊員を主人公とする「造花の香り」を書きあげて間もなく、幾つかの出版社に原稿を送ってみました。
多くの場合、「当社は持ち込み原稿を受け付けておりません。新人賞に応募してください」なる文書とともに返されてきましたが、ある出版社から返送された原稿には感想文が添えられていました。意外にも、そしてありがたいことに、長編の「造花の香り」を通読して頂けただけでなく、便せん2枚の感想文を賜わりました。

その手紙には、「興味ぶかく読むことはできたけれども、出版することはむつかしい」とありましたので、その理由を聞いてみたくて電話をかけました。
理由を聞いてみると、「良く書けている小説だと思うが、出版に関わる状況が厳しいために、無名作者のものを出版することは難しい」ということでした。そして、「あなたの身内に特攻隊で戦死された方はいますか」と問われました。

その問いかけが意味するところは、「作者の身内に特攻隊で戦死した者がいたのであれば、小説を売るうえでの話題になり、無名作者の小説であっても売れる可能性が見込める」ということでしょう。

私の身内に特攻隊員はいないし、出征していた父も無事に復員することができたから、個人的には戦争の悲劇と関わりがありません。私は後期高齢者と呼ばれる齢とはいえ、話題になるほどの高齢者ではないから、年齢が売り込みに役立つとも思えません。

無名の作者であって、話題となる要素にも乏しかろうと、心血をそそいで仕上げた作品ゆえに、少しでも多くのひとに読んでもらいたい。どうしたものかと考えた末、もうひとつの小説「防風林の松」とともに電子出版することにしました。

というわけで、 forkN と DLmarket なる電子書籍プラットフォームに出品したのですが、案の定と言うべきか、膨大な電子書籍の中にうずもれて、売れる気配は全くみられませんでした。forkNとDLmarket で売れているのはマンガとライトノベルであって、「防風林の松」や「造花の香り」のような純文学系の小説は、どうやら見向きもされないようです。

しばらく様子を見た結果、出品先をアマゾンの電子書籍であるキンドル本に変えることにしました。「アマゾンのキンドル本には、自由に感想などを記入できるカスタマーレビュー欄がある。無名作者の小説であろうと、高い評価のレビューが書き込まれたなら、純文学系の小説であっても注目されるかもしれない」と期待してのことです。

というわけで、「防風林の松」と「造花の香り」をキンドル本にしました。原稿を読んでくださった知人や友人たちからは、望外な評価を頂戴していますが、キンドル本にしてからひと月が経っても、カスタマーレビューを書いてくださった方は一人もありません。

芥川賞を受賞した小説が売れるのだから、純文学に親しむひとはまだ多いはず。原稿を通読してくださったあの編集部員さんの、「興味ぶかく読むことができた」「良く書けている小説だと思う」なる言葉を信じて、あきらめることなく様子を見ようと思っています。



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