SSブログ

小説「造花の香り」に対する批判を聞いて [小説]

まったくの素人でありながら、私は小説にチャレンジし、ふたつの作品を電子書籍として公開しているのだが、無名の作者による小説を読もうとするひとはなさそうである。最近になって、このブログの左サイドバーに小説の概要を表示したけれども、ブログを訪れてくださる人が少ないので、さほどの効果は期待できそうにない。

思いを込めて、そして心血を注いでなした小説だから、少しでも多くのひとに読んでもらいたいもの。そんな気持ちで幾人もの知人に原稿を贈った。中学や高校時代の友人にはごく限られたひとにしか贈らなかったのだが、そのうちのひとりは読んだあと、元同級生だった仲間たちに回してくれた。そのおかげで、思いがけず多くの仲間に読んでもらえることになり、とてもありがたく、感謝している次第である。

10月28日のブログに、「傘寿の同級生が50人も集まった中学校の同窓会」なる記事を書いたが、その同窓会で、数人の仲間から「読んだぞ、あの小説を」と聞かされた。作者たる私は無条件に嬉しく、感謝しつつそれを聞いたが、そのうちのひとりが「造花の香り」についての感想を口にした。「特攻隊に関わる小説なのに、主人公の思考は戦後の視点にたっているみたいだ。そこが「造花の香り」の問題点だと思う」

私は「造花の香り」を書くにあたり、主人公を戦前の一般的な青年たちとはやや異質な人物にした。「やや異質」とはいえ、当時の日本に少なからず存在したはずの青年だと思っている。内向的であり、思索的であって付和雷同することなく、戦時の社会を冷静に眺めることができた青年。そのような青年が戦前の日本にも少なからず存在していたことは、特攻隊員たちが遺した書簡や日記などから推察できる。

私は言った。「戦前であっても、作家の永井荷風は日記の中に、〈日本がアメリカと戦って勝てるはずがない。どうせ負けるのだから、一刻も早く負けた方が日本のためになる。〉と書いている。戦時中にそんな日本人すらいたくらいだから、小説の主人公のような学生は少なからず存在していたはずだ」

10月11日に投稿した「特攻隊員上原良司が遺した言葉」で紹介した上原良司は、必勝を固く信じていた日本人が多かった戦前の時代にあっても、日本が敗北に至ることを確実視しており、「全体主義国家である日本が、国民の自由を保証する国と戦って勝てるわけがない」と遺書に記している。学徒出身の航空士官だった林尹夫の遺稿集「我が命月明に燃ゆ」によれば、林尹夫もまた、日本が戦争に勝てるとは思っていなかったようである。

多くの学徒兵がその真意を知られることなく戦死したわけだが(検閲を免れ得るとわかっている場合にしか、遺書にも真意を記すことができなかったはずである。)、上原良司や林尹夫のような思考の持ち主も、かなりの比率でいたのではと思う。小説「造花の香り」の主人公である良太も戦争に疑問を抱き、敗戦を必至なものと見なしながらも、上原良司とは異なり、特攻隊の意義を前向きにとらえようとする。これまでに読んだ幾つもの遺稿が(注)、そのような学徒兵が実在していたはずだ、と私に思わせる。

29日のブログに投稿した「三笠宮に関する新聞記事を読んで」にも書いたが、先頃逝去された三笠宮に対する追悼記事(朝日新聞10月28日朝刊)によれば、昭和天皇の弟宮であって陸軍の軍人でもありながら、戦中にあっても極めてリベラルな思考を持ち続けられ、陸軍のあり方を痛烈に批判しておられたという。三笠宮が戦時にあってもリベラルであり得たのは、皇族であったがゆえではなく(言論と思想の自由が抑圧されていた戦前の日本で、日本軍が中国で行った略奪や虐殺さらには強姦などを公然と批判し得たのは、三笠宮が皇族であったからにほかならないのだが)、備えておられた知識と資質によるものだった、と言えるのではないか。特攻隊で出撃していった数多くの学徒兵たちの中には、戦時の思潮に深く染められていた者も、染まらない部分を持ち合わせていた者もいたはずである。

小説「造花の香り」を「戦後の視点で書かれた小説ではないか」と批判する声に対して、私は以上のように応えるのだが、批判する声を否定するつもりはない。特攻隊を扱った小説「永遠のゼロ」はベストセラーになったが、その小説に対しても、賛否の両論がともに多いとのことである。その小説を読んでいる私はそのことを知り、さもありなんと思った。小説をどのように受け止めるかは、読む人ごとにそれぞれであろう。


(注)学徒兵の遺稿
学徒兵たちの遺稿集は幾種類も刊行されているが、その幾つかは今でも各地の図書館の蔵書になっている。私が利用する図書館は、昭和24年に発刊された「きけわだつみのこえ」の初版を蔵している。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0