父の歌集より 11 [父の歌集]
昭和10年(1935年)に詠まれた歌です。
砂山に日はくれはてて麦をやく火のあかあかともゆるひそけさ
照りつづき幾日へぬらむ此の雨に綿すがすがし露ふくむ花
松山を出づればひろごる新畑の甘藷未だ小さしとんぼうのとぶ
土用の日粉煙草吸へば午すぎをただに蝉なくことのものうさ
煙草つきて鑵に残りし粉煙草を吸ひつつあれば父し偲ばゆ
父死にてすでに三年をすぎにけり粉煙草をすひつつしみじみと思ふ
とんぼうの 太藺(ふとい)の下をとびてゐる乏しき水にうつる白くも
太藺・・・・・・池や沼に生える1~2mの草
稲の花かすかににほふ雨あがり池にうつりて行く秋の雲
法師蟬鳴きどよもしてゐたりけり稲花に咲きてにほふ曇り日
山畑の粟の色づく頃なれや百舌の高音のすみとほりきこゆ
新稲のみのりそめたるこの朝けそこここに冴ゆる空銃の音
空銃・・・・・・雀を追い払うために、竹筒の水にカーバイドを入れ、
発生したガスに点火して爆発させる。
白々と桑のうれ葉にふりそそぐ今朝の雨かも秋冷えにけり
刈りとりて畑の隅によこたへし枯甘藷蔓に置ける初霜
いてふ(銀杏)の葉しきりに落ちてゐたりけり時雨の庭の風寒けきに
はるはると冬田の果に靄こめり凪ぐ月の夜を五位鳴きわたる
五位・・・・・・五位鷺
とどろ波よする荒磯に立つ巌のゆるかぬ御代にあひしものかも
はるばると空に連なる五百重波海上の果に立つ雲のゆゆし
五百重波(いほえなみ、いおえなみ)・・・・・・幾重にも重なって
立つ波から立つにかかる言葉
2021-12-12 19:56
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