父の歌集より 16 従軍中に詠まれた歌 1 [父の歌集]
出征してひと月半が経った頃の歌です。
父の歌集には戦闘に関する記述がなく、切迫した事態を伺わせる文章や歌は記されていません。射撃演習や行軍演習の合間に見た情景など、むしろ長閑な印象の歌が目立ちます。中国の子供や住民の様子を詠んだ歌もありますが、もしかすると父が所属する部隊も、中国人に迷惑をかけていたのかも知れません。2020年12月18日に投稿した「『反日』や『自虐史観』を言い立てる者たちに読ませたい書物」によれば、食料が不足すれば中国人から奪い、川を渡る際に筏が必要となれば、中国人の家を壊してそれを作ったとのこと。父は中国でのことを話すことがなく、家族の者も問うことはありませんでした。中国での滞在場所を聞いたとき、「長沙に居た」と答えただけでした。
中国の地にありながら、常州の郊外に陸軍の演習場があったようです。日中戦争が7年余に及んだその頃、地域によってはそのような状況にあったということでしょうか。
七月十日頃にやありけむ射撃演習のためはじめて文在門
教育隊営外に出でしをりに
城壁のほとりの草に咲きすめる露草の花はひそやかなるも
ひさびさに営外に出て畑つ物のびゆく見れば心たのしも
たまたまに風のわたればおほどかにゆらぎ光れるとうもろこしの葉
はじめての行軍演習に城外北方に行きぬ
白露にぬれし西瓜の葉を見れば心すがしも大陸の朝
露にぬれし西瓜畑のすがしさや大陸の朝は静かに明けし
いとけなき支那人の子が畑にゐて瓜の手入れにいそしみ居るも
水清きクリークのあり底砂に日かげゆらぎてあきつ飛び交う
常州南門外演習場に日毎演練に行く
街頭に甜瓜(マクワウリ)はむ支那人の日毎にふえて夏たけにけり
代用食に煮すぎしうどんを食はせられて
ふるさとの季節のもののなつかしき妻ならばかくすまじきものを
紫蘇の葉の香高きを瓜の実のすがすがしきを食みたく思ふ
南門外演習場にて
一粒の苗代苺手にとりて心しみじみふるさとを思ふ
苗代苺(なわしろいちご)・・・・・・野いちご
故郷も苗代苺熟れたらむ吾子等も日毎摘みつつあらむ
ふるさとを遠おろかめば目にうかぶ母の姿のなつかしきかも
2022-02-03 22:01
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