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父の歌集より 17   従軍中に詠まれた歌 2 [父の歌集]

    はじめて故郷より便り来りぬ
                                                   
ふるさとの便りうれしも若草の子等すくすくと育ちゐるらし
送り来しうからの写真しみじみと見つめてあれば心怪しも
たどたどしき吾子の便りのかな文字を見つめて吾は心ともなし
                                                                                                                                                
出征中の父に私はハガキを書きました。母にすすめられても、小学校(当時は国民学校と呼ばれた)の1年生になったばかりの私には、書くべきことが思い浮かばず、母からヒントを与えられながら、習って間もないカタカナで、数行ほどの文字を綴っただけでした。父が歌集に書き残してくれたので、懐かしく思い出した次第です。わづか数行の拙い文章であろうと、父には貴重な便りだったはずです。父だけでなく、母の気持ちもわかるような気がします。 
                                                   
わがために陰膳すえて茶をいるく母の心に涙したれぬ
老松の梢透してさす日ざし砂にきらめく思ほゆ
ふるさとを遠おろかめば白砂のかがやく杜の目にありかよふ
                                                   
    本隊に追及せんとて南京集結、待機中幕府山より 八月末なり
                                                   
雲かげりここだうかべて長江は広く大きく流れたりけり
                                                  
     九月十一日急性腸炎のため南京第二陸軍病院に入院す
                                                   
父と同じ日に出征した同級生の父親は、戦時を無事に生き延びながら、復員の日を待っている間に、消化器系の病気で亡くなったと聞いております。
                                                   
えのころの実をついばみてゐたりけり病院の庭にあひるの群は
病院の朝のしじまやまなかひを動くともなく霧の流るし
患者独り死にてゐたりき朝さめて心むなしくただ見つめをり


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