父の歌集より 18 従軍中に詠まれた歌 3 [父の歌集]
昭和19年(1944年)の9月11日、父は急性腸炎にて陸軍病院に入院したとありますが、かなりの重症だったらしく、南京に置かれた中支防疫給水部に移されたとのこと。退院したのは10月14日とありますから、通常の急性腸炎ではなかったようです。
九月二十日頃中支防疫給水部に転送せらる、寝床のつれづれに
しきりに故郷のことども思はれて
病衣の肌寒々と冷えにける故郷の秋も深まりならむ
峡小田(たにおだ?)の垂穂しとどに露おきて霧おぼろなる故郷し思ほゆ
茸山に張りめぐらせる標縄に秋日照らむか故郷はいま
子等の声くぐもり聞こゆる茸山に光りかそけき故郷しのばゆ
露ふくむ実り田に立ち畑に立ち働き給ふ姿しのばゆ
ふるさとに残れる吾子ら甘藷畑にさざめきてあらめ秋深まれば
故郷のたよりを聞かずなりしよりすでに五十日となりにけるかも
久々に冷雨あかりて背にぬくき秋の日ざしのなつかしまれつ
吐く息のかすかに白く見えしより季節の移りをしみじみ思ふ
めされ来てすでに六月をすごしけり中支の秋も深まりにけり
村の祭も近づけば
指折りて待ちつつあらむ子等の顔瞼に浮ぶ祭近づけば
たまさかの赤き着物をよろこびて人にほこりし吾子を思ふも
幼子の手ひきて神輿おがませし去年の祭の思はれにける
私の村の祭りは10月17日です。父に連れられて神輿が通る様を見たようですが、5歳だった私にその記憶はありません。私に向けられた獅子舞の獅子頭におびえた記憶はかすかに残っているのですが。
2022-03-02 12:11
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