父の歌集より21 従軍中に詠まれた歌 6 [父の歌集]
三月初旬軍用道路構築作業に出づ、そら豆ののびたるを見る
春されば蚕豆(そらまめ)の葉をもてあそぶ子ら思ひつつ土ほりにけり
蚕豆ののびのしるけしふるさとの子らは今年ももてあそぶらむ
たくましき生命動きて一せいに草萌えんとす焼けし河原に
三月十五日頃汨羅下流なる河夾塘を経て湘陰に行く
ほのぼのと柳芽ぶきてゐたりけり水のやせたる湘水の岸
湘水・・・・・・湘江(揚子江の支流である大河)の別名
三月二十日衛生兵要員として中隊を出で・・大隊本部に至る
二十五日仝所発、長沙に向かふ 二十七日 師団医務室を出で
輜重隊本部(江藤隊)着、三十一日仝隊第二中隊(大寺隊)に
至り指揮班に入る 中隊は長沙西部岳麓山の西にありき
・・は判読できない漢字(2文字)
父の生前に聞いたことがあります、中国のどこに居たのかと。父は一言「長沙に居た」と答えただけでした。父がそこで口をつぐんだので、私はさらに問うことをやめました。出征してから10ヶ月後に長沙に至り、終戦までその周辺に滞在したようです。
五月若葉照る頃故郷の明るき砂丘と桑の色の・・思出されて
ふるさとの砂丘の畑は桑の芽ののびのしるけく蚕も生まれたらむ
大社祭近づきにけり吾が子らはいかにかすらむわびつつ思ふ
大社祭・・・・・・出雲大社の大祭礼(5月14日から三日間)
五月二十日に
大君の御楯たらむと出でし日のめぐり来りて一年を経し
産土に詣で祈らむうかららの姿しのばゆ若葉照る今日
産土(うぶすな・・・・・・産土神の略、鎮守の神)
子らを夢見て
砂山に四人の吾子ら遊びゐて語らうさまをまざまざと見し
三歳の吾子の歩みのたどたどと砂山を行く心もとなさ
三歳の吾子・・・・・・満1歳だった三男
胡瓜もみのささやかにしてふる里の朝餉の膳を思い出したり
2022-03-31 22:10
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0