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白黒テレビを月賦で買った時代・・・・・・・・昭和31年当時のテレビの価格 [政治および社会]

8月3日に投稿した「召集令状1枚で戦地に送られた戦前の若者たち」は、昭和31年4月発行の「特集文芸春秋」に関わる記事だった。その雑誌の裏表紙には、「アフターサービスのゆきとどいた東芝テレビセット」なる広告が載っている。その広告を見て驚いのは、テレビの価格が高額なことである。


当時は白黒のブラウン管テレビであり、昔懐かしいテレビの写真が載っている。写真の下には価格が表示されており、14インチ型82000円、17インチ型142000円、21インチ型198000円となっている。14インチ型の画面サイズは13インチ程度、21インチ型の場合の画面サイズは19インチ程度のはずだから(ブラウン管テレビはブラウン管のサイズで表示されていたが、ブラウン管の厚いガラスのせいで、画面サイズはブラウン管のサイズより小さかった)、昭和31年当時の最も画面の大きなテレビも、最近の小型テレビ以下のサイズだったことになる。実質的な画角19インチのその白黒テレビが、およそ20万円で売られていたのである。


当時の賃金レベルを思えば、テレビは極めて高額な商品であり、月賦で買った人が多かったと思われる。私がテレビを買ったのは、それから8年後に開催された東京オリンピックの年で、昭和39年になっていたが、現金払いではなく何回かの分割払いにした。高度経済成長によって給料が高くなり始める直前の時期だった。


当時の会社は低賃金で社員を使い、多額の内部留保をため込んでいたのであろう。円安と相まって、電器産業などの輸出企業が発展し、高度経済成長にともなって賃金も上昇したわけだが、もしかすると、その経験が自民党のトリクルダウン論のもとになっているのかも知れない。


安倍首相はアベノミクスの成果を誇っているが、大企業と資産家だけが得をして、多くの国民は置き去りにされている。企業が膨大な内部留保を積み上げている一方で、トリクルダウンの恩恵など微塵もなく、異常な超低金利は弊害をもたらし、最低賃金は韓国に追い越されつつあり、非正規雇用者は苦難を強いられ、将来の日本に暗い陰をもたらし・・・・・・・・・。失われた数十年を経るうちに、幸福度ランキングが先進国中で最低の状態が久しく続きながらも、安倍首相の自画自賛の声に賛同する国民も多く、将来展望に明るさは見えず、・・・・・・・・。


シャープが先鞭をつけた液晶テレビが、テレビのありようを大きく変えたわけだが、極端に変わったのはその価格であろう。60数年前には実質19インチの白黒テレビが20万円(現在の貨幣価値に換算したらいくらになるのだろうか。おそらく数百万円になるだろう)だったのに対して、60インチの高精細カラーテレビを、20万円以下の価格で買える時代になっている。驚くべきは価格にとどまらない。60年前には、4Kテレビどころかハイビジョンテレビの出現さえ予想しなかったのだから。


個人的な思い出になるが、NHKでハイビジョンの研究が始まった当時、私はそれに協力したことがある。実験用に大型のビジコン(テレビを撮影するための真空管の一種。ハイビジョン用として解像度をあげるために受光部を大きくした)を作るというので、受光面に使う2インチ径のガラス円盤(通常のビジコンには1インチあるいは3分の2インチ径のガラスが使われていた)に、透明導電膜(ビジコンに必要不可欠な膜)をつけてほしいとのこと。私は通常業務の合間をぬって、NHKの技術研究所から送られてきた幾枚かのガラス板に、必要な処理をして送り返した。ビジコンとして最も重要な光導電膜などの製作は、NHKの研究所が行った。


次の年の春だったろうか、恒例になっているNHK技術研究所公開行事を訪ねたところ、32インチのハイビジョンテレビが展示されていた。現在の9対16比の画面ではなく、9対15の画面だったと記憶しているが、画面の大きさとその精細さに感心したものである。今ではさらに、4Kあるいは8Kテレビまで進化するに至ったわけだが、それを成し遂げたのは、執念を燃やして取り組んだ研究員たちであり、その研究を支えてきたのは、国民が支払っている視聴料である。


付記(8月10日)

調べてみたところ、昭和30年の国家公務員初任給は8700円、大卒初任給は11000円程度だったようである。そのような時代に、小さな白黒テレビが20万円という価格であった。

NHKが試作して、研究所の公開行事で展示していたのは、32インチ型ではなく、30インチ型だったようである。

試作機の画面は9対15(3対5)だったが、アメリカ側からの要望に応えて、現在の9対16になったとのことである。



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